ユリエママが慣れた手つきで部屋を手配した後、ぼくたちはすぐに部屋に入りました。
中は予想以上に広々としており、奥には素晴らしいバスルームがあります。
もしかしたら、かつて家族旅行で泊まったホテルよりも美しいベッドかもしれませんね。
「じゃあ、けんたろう君、先にシャワーを浴びてきて。
その間に私が色々と準備しておきますから」と言われ、ぼくは言われた通りにバスルームに入ってシャワーを浴びました。
お湯を頭からかぶった瞬間、少し頭が冴えました。
あぁ、本当に、今から始まるのですね。
もしかしたら、自分の理想が高すぎて現実との乖離が激しいかもしれません。
自分は童貞であり、夢見がちな夢想家ですから。
現実を知ってがっかりされるかもしれません。
でも、せっかくここまで準備が整えられたのです。
せめて最後まできちんとSNS上でのキャラクターを演じ切らなければなりません。
「とは言っても…」と、本番で全てがうまくいかなくなる可能性も否めません。
既に道中でかなり緊張し、舞い上がってしまいました。
自分への信頼が少しずつ崩れていくのを感じます。
シャワーを終えて、ぼくは生まれて初めてのバスローブを身に着けました。
ユリエママがシャワーを浴びている間、ぼくはベッドに座って緊張で固まってしまいました。
ユリエママが出てくると、ついに始まるのです。
一種のカウントダウンです。
ラインを越える瞬間へのカウントダウンです。
それを意識してしまい、結局ぼくは緊張してしまいます。
時間が永遠にも一瞬にも感じられましたが、バスルームのドアが開く音を聞いて、ぼくは一気に現実に戻りました。
「お待たせしました、けんたろう君」 「は、はい」 「隣に座ってもいいかしら?」と言って、ユリエママはバスローブを着たままぼくの隣に座りました。
シャンプーの良い香りが鼻をくすぐります。
女性が隣にいることを再認識した瞬間、胃と脳がキュッと締め付けられるような感覚がありました。
準備は整った。
いよいよ、赤ちゃんプレイの開始だ。
しかし、これまで赤ちゃんプレイについて熱心に学んできたはずなのに、今の状態では頭が真っ白で何をすれば良いのか思い浮かばない。
身体はカチカチに凍りついてしまっている。
自分でも情けないと思うが、仕方がない。
こんな状態では失望されても仕方がないだろう。
「ふふっ」と思わず笑われてしまった。
目を閉じてしまったが、ユリエママが優しく手を添えてくれた。
そして… 「いい子いい子……」とゆっくりと優しく、頭を撫でてくれた。
すると、「ふわっ」とつい声が漏れてしまった。
たった頭を撫でられただけなのに、心の締め付けが解れていったのだ。
「大丈夫、大丈夫よ。
緊張することはないの」とユリエママはなでなでと頭を撫でながら言ってくれた。
その温かい手のひらが頭に触れるたびに、彼女の手の温もりが心を溶かしてくれるようだった。
「頭の中真っ白になっちゃったんでしょ?」「分かるの?」「ええ。
だってけんたろう君すごくガチガチだったんだもの」と恥ずかしそうに言われた。
しかし、ユリエママの手が頭を撫でるたびに、安心感が次第に勝っていく。
彼女の温もりは本当に心地良かった。
「安心して、私がちゃんと導いてあげるから」とユリエママは優しく慈しむような目でぼくの顔を見つめてくる。
「私が気持ちよく、けんたろう君を赤ちゃんに戻してあげるわ」と言ってくれた瞬間、心の中に絡まっていた緊張が一気に解れていった。
「怖がらなくていいのよ。
優しく甘やかしてあげるから」「……うん」「なでなで気持ちいい?」「うん」と小さく頷く。
緊張が解け、晒されていた心にユリエママの手の温もりが染み込んでくる。
どんどんリラックスしていく気持ちだった。
彼女に任せれば、ちゃんと導いてもらえるという安心感が次第に芽生えていく。
しばらく頭を撫でられると、緊張の心はほぼ消えてしまった。
目の前のユリエママとしっかり向き合うことができるようになった。
実は、どうしたらいいかよく分からないんだ。
でも安心していい。
ユリエママがきちんと案内してくれると確信していたんだ。
「ではさっそく、赤ちゃんプレイを始めましょうか」と胸の前で手を一度パチンと叩かれ、スタートの合図が鳴り響く。
一気に緊張が高まっていく。
「さぁ、けんたろう君。
赤ちゃんプレイを始めるために、最初にすることは何かわかるかな?」 「あ、えっと……」ちゃんとわかっているんだ、本当に。
ただその答えがなかなか言葉に出てこないんだ。
いや、違う。
ぼくはユリエママに教えてもらいたいんだ。
だから、ちょっとだけ分からないフリをするんだ。
「それはね〜、君が私を『ママ』って呼ぶことなの」 「呼ぶの?」 「そう。
君が『ママ』って呼んでくれたら、私もけんたろう君のことを『けんちゃん』って呼び返すの」突然愛称を付けられて、思わずドキッとしてしまう。
「言葉にはね、すごーい力があるんだよ。
だから口に出して『ママ』って呼ぶとね、相手を本当のママのように感じるようになるの。
そうすれば、赤ちゃんプレイにもしっかり入り込めるだろうね」ついついその光景を想像してしまう。
それはぼくにとって、本当に素敵な光景なんだ。
「だからね、けんちゃん」とユリエママが優しくぼくの手を握る。
「『ママ』って呼んで」 「あ……うぅ」ユリエママの美しい顔が近づいてくる。
女性特有のいい香りが鼻に広がる。
言いたい、言いたい、言いたいんだ。
頭には言葉があるのに、どうしても喉を通り越してくれない。
言わないと始まらないのに、言いたいんだ。
きっとこれは、普段から赤ちゃんとしての言葉をあまり口に出さなかったツケなんだ。
自分が情けなくて涙が出てきそうになる。
するとユリエママはゆっくりとまた、頭を撫で始めてくれた。
「大丈夫、焦らなくていいんだよ。
けんちゃんのペースで言ってくれればいいのさ。
「ママ、待っているよ」と言われながら、彼女は優しく頭を撫でてくれた。
すると、心の中の不安や苦しみが少しずつ薄れていくような気がした。
あぁ、この女性がぼくの母になってくれるのだ。
ぼくが彼女をママと呼んでも許してくれる。
ぼくの欲求を受け入れてくれる。
そして何よりも、ぼくは目の前の女性の期待に応えたいのだ。
ゆっくりと氷が溶けるように、言葉を丁寧に紡いでいく。
「マ…マ…」 「!けんちゃん、もう一度言ってごらん!」 「ママ…」 「はい、けんちゃん!私がママだよ〜」 彼女の顔に明るい笑顔が広まる。
その瞬間、ぼくは心の底から安心した。
ぼくが彼女をママと呼んでもよいと許してくれたのだ。
「ねぇけんちゃん、もっともっとママって呼んでごらん」 「マ…マ」 「はい、けんちゃん」 「ママ」 「うんうん、私がけんちゃんのママだよ〜」 ぼくたちは何度も何度もお互いに「ママ」と「けんちゃん」と呼び合いました。
その言葉を口にするたびに、ぼくたちの関係が本物のように感じられました。
身体に馴染ませるように呼び合い、自分自身に暗示をかけるのです。
口に出すたびに、それがぼくたちの真の母子関係であると思い込んでしまうのです。
「けんちゃん、今度はママの顔を見てごらん」 「?」 彼女は手でぼくの頬を撫でながら、自然とぼくの視線を彼女の顔に向けました。
「ふふ、けーんちゃん」 「!マーマ」 「そうだよ!ちゃんと顔を見て言えたね〜すごいぞ〜よしよし〜」 彼女は笑顔で頭をたくさん撫でてくれました。
顔を見ながら呼ぶことが、こんなにも心躍ることだとは思いませんでした。
ママと呼んだ瞬間、ぼくの心の中で「この女性が本当にママなんだ」という確かな感覚が芽生えました。
そして何度も呼び続けます。
呼びます。
お互いに呼び合います。
この特別な関係を心に刻み込むために、言葉にして自分たち自身に覚えさせるのです。
「ふふ、たくさん言えたね。
けんちゃんはすごくいい子だよ。
これで私とけんちゃんの最初の母子関係が成り立つんだよ」 その事実が宣言されたことで、ぼくはさらに確かな実感を持ちました。
仮にでも、ぼくたちには母子関係があると言ってもらえたことが非常に嬉しかったのです。
「それじゃあ、次は~、ママとお約束をしましょうな」「お約束って何ですか?」「そうだな。
ママとバブバブ遊びをする場合は、四つのお約束を遵守しなければならんのだよ。
けんちゃん、それを守れるかしら?」 そう言うと、ユリエママは人差し指をピンと伸ばして、お約束の説明を始める。
「まず一つ目、ママの言うことを聞くこと。
これからママはけんちゃんを赤ちゃんに導くんだけど、ママの指示をしっかり聞かないと上手く赤ちゃんになれなくなるのよ。
けんちゃんはいい子だから、ママの言うことをちゃんと聞いてくれるわよね?」「うん、ちゃんと聞くよ」「よろしい。さて、次は二つ目、できるだけ赤ちゃんになりきることよ。ママもけんちゃんのママになりきるから、けんちゃんもできる限り赤ちゃんになりきってくれると嬉しいわ」「うん」「ただし、ママはけんちゃんがもう甘えん坊の赤ちゃんハートを持ってるって知ってるんだけどね」「あはは……」「もし赤ちゃんになるのがつらいつらいってなったら、幼稚園児くらいになりきっててもいいのよ。それでもできるかしら?」
「うん。頑張るよ」「いい返事ね。
では、三つ目、たくさんママを頼ることだ。
けんちゃんはこれから一人じゃ何一つできない小さな子供になるんだから、何でもママに頼ってね」「何でもですか?」 頭の中で色々な妄想が浮かび上がり、恥ずかしさで顔が赤くなる。
「そうよ、何でも。できるかしら?」「うん……頑張ってみるよ」「うん、頑張ってね。では、最後のお約束、これがとても大事なことだからね」
ユリエママの目を見ながら話してくるので、思わず唾を飲み込む。
「四つ目はね……ママとたくさんの思い出を作ろうってことなのよ」「……思い出ですか?」「そうよ。せっかく赤ちゃんプレイをするんだもの、楽しくて素敵な思い出にしないと損じゃない。しかも、ママと赤ちゃんで思い出作りなんて、特に変なことじゃないのよ」
とユリエママは、まるで当たり前のように無邪気に語ってくれる。
でも、その言葉には心地よさがある。
今日終わっても、母子として遊んだことを何もなかったかのように忘れないと言ってくれているようにも感じる。
「だから、今日はママと一緒に楽しく、たくさんバブバブしましょうね」「うん、たくさんする」「返事が上手だね。じゃあ、約束の指切りをしましょうか」小指と小指が絡み合う。
「あ、ごめんね、けんちゃん。もう一つ約束があったわ」「?」「今日のことは他の人に内緒にすること。大きなお兄ちゃんが女の人とバブバブ赤ちゃん遊びをしているのがバレたら大変なことになっちゃうからね」そう言うとユリエママは、ぼくの耳元に口を近づけて、ゆっくりと囁いてきた。
「だからね…これから始まるバブバブ遊びは、ぜーんぶ内緒の遊び。今から作っていく思い出は、ママとけんちゃんだけの秘密の母子関係なのよ。わかったかしら?」小さくうなずく。
二人だけの秘密。
その甘美な響きに、ぼくの脳みそはピンク色に染まっていく。
ドキドキがふくらんでいくのを感じてしまう。
「じゃあ、もう一度お約束の指切りをしましょうね。ゆーびきーりげーんまん」絡ませた小指を上下に動かすユリエママ。
これが約束が結ばれた証。
ぼくとユリエママの間に結ばれる、まるで本物の母子のような契約だ。
そう考えると、ぼくの心は一気に幸せに包まれていった…。
ノベリスターの感想 ばぶぅ……赤ちゃんになりたい。
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